5月5日    晴れ
  まず最初に、今日の日記を書いているのは、エスタンではなく、この私、アレンで
ある。勿論、読者は何故エスタンではなく、私がこの日記を書いているのか疑問を感
じるはず。それには、こういう事情があったのだ。
  実を言うと、早朝までエスタンは私達と一緒にいたのだ。しかし、彼の故郷の森で
とある事件が発生したという知らせが届いて、即刻戻らなければならなくなったのだ。
だがエスタンは、森からここまでの20キロの行程で、完全に迷ったという過去があ
る。そこでフレイも同行することになった。私達も行く予定だったのだが、その直前
に、初仕事の依頼をくれたハイマート家から、至急来て欲しいと使者が来たのだ。あ
まり気が進まないけれど....
  準備が整ってからエスタンはエトワールの部屋に行って何か話をしていたようだが、
やがて首をうなだれて、感涙にむせびながら私に言った。「この日記を任せられるの
は、お前しかいない........」確かに、知識の神に仕える私をおいて他に適役はいな
いだろう。
  欠けた2人を補うため、新たに2人をパーティーに迎え入れた。1人はエルフの精
霊使いであるライア。温厚な性格で、私と気が合いそうだ。もう1人は人間の戦士で
あるリャオ=チーニン。腕は確からしい。だが、これから起こるであろう衝撃に2人
は耐えられるであろうか。

  ハイマート邸に行ってみると、庭のあちこちから煙が昇っていた。尋常ならざる事
態であることを誰もが直感し、これから起こるであろう何かへの戦慄を感じずにはい
られなかった。応接間でミナさんが落胆した表情で私達に話してくれた、その恐るべ
き内容とは…。

  「実は、あの竪琴が盗まれたのです。トラップも20個前後は作動したのですが...
.....やはりF−63でとどめを刺せなかったのは誤算でしたね。爆薬を内蔵した50
個のトラップが連動していて、その内の1つが作動した瞬間全てのトラップが爆発し
て通路全体を吹き飛ばすという自信作だったのですが........」

  をい...............常識を超えている事は予想していたが、一体いくつトラップ仕
掛けてあるんだ?単純計算でも最低で378個はあるぞ........今度調べてみよう。

 「何人かは生きていたので2階に吊してありますが、様子を見に行きましょうか。」

  このようなことを平然と言ってのけるミナさんに対して、ライアとリャオは大きな
衝撃を受けて、錯乱状態に陥っている。1度来たことがある私達でさえ、既に言葉を
失っていた。

  その部屋はかなり広く、数々の絵画がそのありあまるスペースを最大限に活用して
高貴な雰囲気をも兼ね備えていた。しかし、その天井には4人の男が今にも死にそう
な姿で吊されているのだ。1メートル程の高さに降ろしてみたら、その惨状がより正
確に見てとれた。描写は省略するが4人の内の2人は既に死んでいた。1人は「ナメ
クジが襲ってくる〜」と訳の分からないうわ言を言い続けている。悲惨だ....。もう
1人は全く動かない。そこでライアが話を聞こうとヒーリングをかけると、傷がみる
みるうちに治っていき........もう全快するという時に、突如縄抜けをして窓に向か
って駆け出したのだ。よく考えたら、こいつを縛ったのは、ここにいる一般人である。
多少の心得があれば脱出する事も十分可能である。

  エトワールがスピアを投げつけようとしたが、それよりも早くミナさんが、天井か
ら下がっているひもを引くと、窓や扉のことごとくに鉄格子が落ちて、男の退路を断
った。それはアイデアとしては素晴らしいのだが....私達も閉じ込められたという事
実に彼女は気づいているのだろうか?すぐさま男は、跳ね返るように進路を変え、ミ
ナさんに襲いかかろうとする。人質に取られたらかなり厄介だ。直前でエトワールが
立ちはだかった。男は非武装だが自らを縛っていた細く丈夫な縄を手に持っていて、
それは使いようによっては十分武器になる。

  男は手元の縄を巧みに操ってエトワールを絡め取ろうとする傍らで、私達の攻撃を
かわすという離れ業をやってのけた。防御に専念してなかったら、エトワールは倒さ
れたかもしれない。私達も最初は手加減をしていたが、本気にならざるを得なかった。
とは言っても、ライアとクリフは終盤になると、する事がなくなって踊り始め、さら
に10秒おきにテンポまで変えていた。そういえばエスタンも踊ってたなぁ。クリフ
のはその悪影響だとしても、ライアまで踊っているとは................エルフって
一体....................

  かなりしぶとい相手だったが(ライアが全快させちゃったからな)倒れかけたとこ
ろにリャオの手加減なしの一撃が炸裂して、結果として殺してしまった。
  仕方がないので唯一生き残っているのを縛りなおした後でサニティをかけて尋問を
開始した。その間ミナさんには部屋の外にいてもらおう。こいつも途中で舌噛んで死
のうとしたりしたが、ヒーリングで全快にさせられて、いろいろあった後に(野蛮な
行為を好まぬ神官として後ろを見ていた)ついに口を開いた。

  ここに侵入したのは、ここラダック最大級の盗賊団ガーラック。構成員は20人前
後で美術品を専門としている。平均してレベル4と実力もあるのだが、ここ数十年の
間、誰も手を出さなかったこの家の家宝である竪琴を狙ったのは、はっきり言って無
謀だったとしかいいようがない。本人は36番目のトラップで意識を失ったそうだ。
胸に入っているフクロウの刺しゅうはガーラックの印章らしい。

  全員「何故そんな身分を明かす物などつけているのだ?」
  「ふっ。(正体がばれた所で)我々が負ける事などないのだ。」
  アレン「現に負けたじゃないか。」
  「うあああああーっ!(号泣)」
  エトワール「こいつ......気に入ったぞ!!」

(唯一生き残ったこの男は、結局ハイマート邸で下働きをすることになった。昨日に
死んだ事にしてしまえば確認のしようがないし、ここなら盗賊ギルドの暗殺者も入っ
ては来ないだろう)

  そして、私達は正式に依頼を受けることになった。

  ミナ「さっきの話は伝声管で聞かせてもらいました。竪琴を取り戻してくれませ
んか。少々危険なので報酬は1万でどうでしょう。」
  クリフ「6人で割り切れる金額にしてくれませんか?」
  ミナ「(平然と)では9600で。」
  エトワール「あの............下げるというのはあんまりじゃないですか。せめて
1万とんで2百で。」
  ミナ「ではそうしましょう。それでは執事のセバスチャンにも行かせる事にしまし
ょう。有能で頼りになる男です。」

  敵の体制が乱れている今のうちに、即刻本拠を襲撃することになった。場所は郊外
の廃屋らしい。下水道を利用して侵入するという案もあったが、迷い込む危険がある
ので却下された。鍵のかかってない門にクリフがロックをかける。これで敵が逃げ出
した時に時間が稼げる。ちょっと見回した所では人の気配はない。裏門にまわり込も
う。多分そこが奴等にとっての正門だ。

  扉を調べてみる。取り立ててトラップはなさそうだ。鍵開けを試みたが、どうして
も開かなかったので、クリフにアンロックをかけてもらった。早速ノブに手をかけよ
うとしたが、寸前でその手はクリフに制された。彼が言うには、ノブに毒が塗ってあ
り、これに触れた者は、恐怖感に襲われてその場から逃げ出すという。知識の神に仕
える私が知らなかったとは。私もまだまだ修業が足りない。しかし、敵もなかなか味
な事をしてくれる。

  セバスチャン「この程度のトラップでいい気になっているとは。もう勝ったも当然
ですな。」
  リャオ「あんたの所と同じにするな!大体、あんな数のトラップは誰が造ったんだ?」
  セバスチャン「名前は明かせませんが、石工ギルドのとある人物に依頼しました。
しかし向こうもやってくれましたね。トラップの修復に200万は必要ですよ。」

  窓はなく中は暗い。クリフがエトワールの盾にライトをかける(盾にかけたのはク
リフの個人的な趣味)。扉は3つ、とりあえず1番奥の扉へ............という時に、
床に張ってある針金にまともに足を引っかけた。立ち上がりつつ周囲を警戒するが何
も起こらない。こんな所にあるのだから、ただの針金である訳がないのだが........
何か起こるのを覚悟して、エトワールが針金を切ったが、やはり何も起きなかった。

  この家もなかなかのトラップ屋敷である。扉から毒ガスが吹き出す、扉と連動して
矢が飛んでくる、天井も落ちる、モンスターのいる部屋もあった。すべて先頭にいる
私がかかっているのだが、幸か不幸か、いまだに生きている。エトワールと協力して
鍵開けを行い、それでも開かなかったらクリフにアンロックをかけてもらう。入れな
い部屋も2つあったが、屋敷中を調べて出て来た物は次の2つである。

  ・200ガメル入っている木箱。何故こんな所に、こんな物があったかは全く分か
らないが、ライアが妙に説得力のある推論をしてくれた。「それはね、目・く・ら・
ま・し☆」

  ・「踊りの像」と文字の入った謎のブロンズ像。「コンコン」とたたくと、何故か
「カンカン」という音がした。

  うーむ、困った。竪琴が見つからない。多分入れない場所にあるのだろうが......
..。思案に暮れているとセバスチャンが嬉しそうに声をかけてきた。「とうとう私の
出番ですな。このような扉など、爆砕して御覧にいれましょう。」
  不安だ!絶対に何かあるっ!それだけは避けたい........しかし結局それ以外に手
段がなく、私達はその提案を受け入れた。するとセバスチャンは背嚢から球形の何か
を取りだして、私達に外に出るよう指示した。私達がそれに遠慮なく従ったのは言う
までもなかろう。

外での会話
  リャオ「いいのか........本当に........その部屋に竪琴があったら消滅してしま
うぞ。」
  クリフ「いや、それ以前に柱が残ってくれるかどうか........」(←適応してきた
な)
  ライア「どうして!?どうして!?まともな思考をする人はいないの〜!!?(絶叫)」
(←ここにいるのに。何故気づいてくれないんだ)
  キッコーマン「とにかく、万一の事があったら、全てあいつのせいにし....

  その瞬間、衝撃波が襲ってきて、私達は3メートル程、問答無用に吹き飛ばされ、
ついで轟音が大地を揺るがした。鼓膜が破れなかったのが不思議な位である。再び中
に入ってみると、扉から半径5メートルの空間は完全に消滅していた。床には屋根だ
ったと思われる瓦礫があり、上を見ると、この状況には似つかわしくないきれいな青
空が広がっていた。別の部屋にあった「踊りの像」も倒れていて........像のあった
場所には下へと続く階段!!何という奴等だ。最初に見つけた時は、あまりにも典型
的に思えてろくに調べもしなかったのだが............本当にそう来るとは........
........

  さあ、遂に悪を滅ぼす時が来た。階段を下りると奥に扉がある。相手はさっきの爆
発で、完全にこちらの襲来を感知しているだろう。不意打ちを警戒して、慎重に少し
扉を開けると、その透き間から現れた一条の銀光が私の体を貫き、激痛を感じた瞬間、
私は意識を失った。息を吹き返した時には傷が完全に治っている。にわかには信じら
れなかったが、次の瞬間にはライアがヒーリングをかけてくれた事が理解できた。後
で聞いた所では、かなり危ない状態だったらしい。部屋の中ではリャオとエトワール
が盗賊2人と刃を交えていた。

  リャオは敵の燃えさかる刃をを的確に見切って鋭い反撃を繰り出している。敵はエ
トワールとの連係攻撃の前に次第に追いつめられていった。その間に、杖を持ってい
る方がスリープクラウドをかけたが、これは全員抵抗。剣を持っている方は倒されて、
全員が勝利を確信した。しかし、向こうは脱出の秘策を考えていたのだ。私達の攻撃
を凌いで敵の呪文が完成すると、周辺が急激に暗黒に包まれていったのだ。しかし、
敵の姿が暗黒に包まれた瞬間、部屋はランタンの明かりに照らされた、元の薄暗い部
屋に戻っていた。エトワールの盾にかけてあったライトと中和したのだ。最後はキッ
コーマンがとどめを刺した。

  そして、その部屋にある2つの扉に鍵開けを試みたが、開いたのは1つだけ。(セ
バスチャン「とうとうこの爆薬入りブロードソードの出番ですな。」キッコーマン「
頼むからやめろ。」)
  そこには数々の絵画や骨董品があった。全部捨て値で売っても50万はいくだろう。
懐にしまいたくなる衝動を押さえつつ慎重に捜していくと、例の竪琴が見つかった。
キッコーマンが面白半分にかき鳴らしてみる(ライアだけはしっかりと耳を塞いでい
たが)。聴いていた私達にはどうということも無く、むしろ快い感覚であった。てっ
きり、あの時の狂乱の宴の再開を予期していたのだが....キッコーマンは悪乗りして、
他の美術品を横領しようとしたがセバスチャンにあっさり阻止された。

  翌日、もう1つの扉を開けにいったら、そこは本棚の並ぶ資料庫だった。様々な建
築物の設計図などがあったが私達の役には立たない。部屋を去ろうとした時、エトワ
ールが隠し本棚を発見。ひときわ分厚い冊子の中から一冊を取り出した。全員の期待
がにわかに高まっていく。無言でそれが机に置かれ、皆もそれを取り囲む形で見守る。


『宿直日誌第406巻』――赤一色の表紙には、その文字だけが唯一の装飾であると
主張するかのように、金色で入れられていた。当のエトワールは、それを全く意に介
しないかのように適当な所を開いている。

『4月25日  天候―晴れ  宿直―ファルト=フォルマータ
    遂に....遂に私もこの日誌に筆を入れることが出来るのですね!!思えば苦節3年、
  ここの一員になる為に人知れず受けた修業も、今となっては素晴らしい思い出です。
    ここまで来れたのも全て師匠のお陰。実を言うと、私はあの厳しさの中にもはっ
  きりとした愛を感じていました。自らあの印章を縫い付けてくれた日の事は一生忘れ
  ません!!そもそも×××××××(以後インクが滲んでいて解読不能だが、この日の
  文章は更に26ページも続いた事を付記しておく)                             』


  一同に長い沈黙が続く。

  「こんなものを読んでいて、そんなに楽しいか。」誰かが辛うじて絞り出した声で
問いかけるが、返答は既に予想済である。「本棚には日誌しか無かったもの」

  用もなくなったので、役所に美術品を届けてハイマート邸に引き返した。事の次第
を聞いて、寝込んでいたリュースも起き出して来て、この竪琴の力を教えてくれた。
その音色もさることながら、調律を変えることで自分の知らない呪歌の効果も出せる
のだという。日常生活で使うものじゃないな....
  こうして、ラダック全都の中でも最大級の規模を持つ盗賊団ガーラックは、私達の
前に、一夜で消滅したのであった。家路につく我々は終始無言であった。その中で、
最後にライアが振り返り様に一言だけ漏らした。「敵ながら気の毒な人達だったわね
…」

第3話インターミッション
  今回はシナリオの単純さに比べてずいぶんと長い日記になりました。ダンジョンは
手間がかからない割にそこそこおもしろい物がつくれるようですね。PCが侵入した
屋敷にはレベル4の人間が仕掛けたという前提に、トラップ等を仕掛けたので、結果
的にほとんどのトラップが発動する事になったのは誤算でしたが、発動を恐れて解除
をしなかったアレンにも責任があります。トラップを誤作動させてしまう確率は「仕
掛けた人物のレベルが解除する人物に比べてずば抜けて高い」場合を除けば、かなり
低いので、まともに行ってひっかかるよりは解除してみるべきなのです。まあ、それ
でも大した被害が無かった所を見ると「もうちょっと凶悪なのを用意した方が良かっ
たかな」という気もします。

  こちらにも誤算がありました。PCが「踊りの像」を全く調べなかったのです。そ
れではこれ以上話が進みません。必要以上に警戒されたとも考えられないので、その
原因はシナリオの流れから来たものかもしれません。周辺に正常な判断をするNPC
がほとんどいなかったのだから。しかたなくセバスチャンに暴走してもらいました。
本来なら彼は、押さえ役と扉、トラップ破壊の担当だったのですが........(それで
も十分暴走しているかも)

  もう1つはラストの戦闘でGMのダイスがひどかったこと。実は、最初の2連続ク
リティカル以降は1回も攻撃が当たっていないのです。最後には1ゾロを乱射してい
い所なしに終わってしまいました。情けないぞ........いくらなんでも。そういえば
最初の戦闘でも折角ダークプリースト技能を持っていたのに使い忘れていました。ま
あ、1人であれだけ掻き回したんだからよくやったというべきなのですが。

  それと、途中で下水道を使って侵入するという案が出ましたが、こうなった時の対
応も実は考えていました。方向感覚の判定次第ではあらぬ方に出てきたり、ハイマー
ト邸の非常時の地下通路に迷い込んだりします。応接間のテーブルの下に通じていて、
途中には勿論凶悪なトラップが仕掛けてあります。
  いろいろ問題はあったけれども、これは初めてクレームが出なかったシナリオなの
でとても嬉しかったです。

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